第2話 頑張ってるのに 満たされないのはなぜ?
「もしかして私、何かおかしいのかな」そう思って検索したことありませんか?
最初に真里奈に会ったとき、私はその目の奥に、誰にも見せていない痛みの影を見た。
外から見れば、なんの不自由もないように見えた。入社8年目、昇進の話も出ている、いわゆる「順調な人」。彼女自身も、「今の仕事はやりがいがあります」と誇らしげに語っていた。
でもその笑顔の内側に、何かが沈んでいるように感じた。ふとした沈黙の間に、ほんの一瞬だけ、風船がしぼんでいくような音が聞こえた気がした。
信頼が少しずつ育まれたある日、彼女は打ち明けてくれました。
「何をしても、満たされないんです。まるで、しぼんだ風船みたいで」
その言葉に、私は胸を打たれた。
真里奈は、冷静で聡明な人だった。
「仕事は楽しいです。やりがいもあるし、評価もされている。でも……」
ふと、目線が揺れる。
「何かが足りない気がするんです。昇進の話が出てから特に……ずっと、自信がないんです。しぼんだ風船みたいに、ズルズル動いている感覚があるんです」
その比喩が、あまりに悲しく、切実だった。
私は彼女の語ったことをそのまま返した。「仕事は充実していて、周囲からの評価も高い。でも、どこか満たされず、自信を持てず、しぼんだ風船のように感じる。そうおっしゃいましたね。これをお聞きになってどう思われますか?」
しばらく沈黙のあと、彼女は言った。
「大変だなぁ、って思いました」
まるで他人事のように。自分の苦しさを、自分のこととして感じられない――その感覚のずれこそが、彼女の生きづらさの核心にあるように、私には思えた。
「もし、同じことを同僚や友人に相談されたら、どうしますか?」
「カウンセリングをすすめると思います」
的確な判断。でも、自分のこととなると話は別だった。
「ご自身は、なぜそれを選ばなかったのですか?」
その問いに、彼女は一拍、間を置き、そしてためらいながら言った。
「……夫が、嫌がるんです。今までにも色々あって…」
その瞬間、これまで彼女が話してきた断片が、一つにつながった。
夫の言葉が、判断が、態度が――彼女の自信を、じわじわと奪っていた。
「『病気じゃないんだから必要ない』『他力本願になるな』『何かあるなら、まず俺に言うべきだ』って言われて……」
「だから、コーチングをお願いしたんです。私は病気じゃないし、前向きなコーチングの方があってると思ったし。もしバレても大丈夫かな、と…」
明らかな精神的支配。
「反対されるのが怖くて、何ヶ月も言い出せなかったんです」
そう話す彼女の肩は、小さく震えていた。
その後、ぽつりと彼女は続けた。
「昔は、虐待がありました。……でも、今はもうありません」
けれど、今も彼女は夫の言葉におびえ、自分の気持ちを封じ、自分を責め続けていた。
その姿は、まさに「しぼんだ風船」。本来の力を発揮できず、地面を引きずるようにして生きている。
けれど――
それでも彼女は、コーチングに申し込んできた。
それは、しぼみきってはいない風船が、どこかで空気を求めているということだった。
「頑張ってるのに 満たされない」と感じていませんか?
もしかして、あなたも「しぼんだ風船」のように感じることがありますか?
その直感を、どうか疑わないで…
あなたの疲れも、違和感も、すべてが大事なサインです。
そして何より——あなたは一人じゃありません。
もし「誰かに話してみたい」と思ったら、
その気持ちを大切にしてください。
あなたのペースで、あなたが信頼できる人に。